薬物療法編
- どんな時、どんなお薬が必要なのでしょうか?
- お薬を服用する際には、こんな注意が必要です。
- インスリン療法の目的。
- インスリン療法の前に知っておいてほしいこと。
どんな時、どんなお薬が必要なのでしょうか?
ひとくちに糖尿病といっても、発病のメカニズムによって2種類に分けられます。まずは膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞からインスリンが全く分泌されない1型糖尿病。この場合、インスリン注射が絶対に必要です。そして必ずしもインスリン注射を必要としない2型糖尿病。この場合、食事・運動療法が治療の基本ですが、よりよい血糖コントロールを得るため、お薬を使うことがあります。
飲み薬(経口糖尿病用薬)を「飲むインスリン」だと思っている人がいますが、これは誤解。膵臓を刺激してインスリンを生産させる薬剤と、膵臓以外に働いて血糖値を下げる薬剤などがありますが、どれもインスリンではありません。たくさんのお薬がありますので、あなたの飲んでいる薬の名前、働きを正しく理解しておきましょう。
あなたの飲んでいるお薬はどれですか?
- スルホニル尿素薬(SU薬)
- 膵臓に働いてインスリンの分泌を促すお薬です。血糖値をよく下げる一方で、低血糖が起きたり、体重が増えてしまうことがある点に注意しましょう。
- 速効型インスリン分泌促進薬
- SU薬と同じように、膵臓に働いてインスリンの分泌を促すお薬ですが、その作用はごく短時間です。毎食ごと、食事の直前に飲むことで、食後の高血糖を抑えます。
- α-グルコシダーゼ阻害薬
- 炭水化物の消化吸収をやわらげて、食後の高血糖を抑えます。毎食ごと、食事の直前に飲みます。お薬を飲み始めてしばらくの間、おなかの調子が乱れることがあります。
- チアゾリジン薬
- インスリンはあるのに、その働きが悪いために血糖値が下がらない「インスリン抵抗性」という状態を改善するお薬です。副作用で、からだがむくむことがあります。
- ビグアナイド薬
- 肝臓でのブドウ糖を作る働きを抑えたり、腸でのブドウ糖の吸収を抑えたり、インスリン抵抗性を改善して、血糖値を下げるお薬です。
- DPP-4阻害薬
- 食後の高血糖のときにだけインスリン分泌を促す「インクレチン」というホルモンがあります。そのインクレチンが分解されるのを防いで効果を高め、高血糖を改善するお薬です。
お薬を服用する際には、こんな注意が必要です。
まず、お薬は少ない量から飲み始め、血糖値の変動を見ながら調整します。飲み薬を飲んでいても、運動・食事療法は続けますが、お薬が効いて血糖値が下がりすぎる場合(低血糖)がありますので、十分注意が必要です。
指示どおりに飲まないと低血糖を起こすことがあります。
血糖値が50~60mg/dL以下になると、強い空腹感、脱力感、手の震え、冷汗、考えがまとまらないなどの症状が出てきます。このような状態を低血糖といい、飲み薬やインスリン注射の効きすぎにより、起こることがあります。
飲み薬は食事などに合わせて、飲むタイミングや量が決められています。勝手に飲み方を変えると、低血糖の原因になりますので、必ず主治医の指示通り飲みましょう。
もしも、低血糖が起こった時は、ブドウ糖5~10gを摂り、少し気分が良くなったら、おにぎりなどを食べてください。
飲み薬があまり効かないときは…。
食事・運動療法と、飲み薬で血糖値が改善できない患者さんはインスリン等の自己注射を行います。
インスリン注射を勧められると、悲観的になる人がいますが、機を逸さずインスリン注射を行うことで、膵臓の働きが回復することもあります。医師から勧められたら、インスリン注射を開始しましょう。
こんな人はインスリン注射が必要です。
- 腎臓や肝臓に機能障害がある人
- 壊疽がある人
- 感染症にかかっている人
- 手術後や大きなケガをしている人
- 妊娠中や妊娠を希望している人
- 飲み薬を飲んでも血糖値の改善しない人
インスリン以外の自己注射もあります。
従来、糖尿病治療で注射といえばインスリン注射のことでしたが、最近、 インスリン以外の注射薬 が開発され、使われるようになりました。
お薬を飲んでいる時のアルコールはOK?
アルコール(蒸留酒)には糖分がほとんど含まれていないため、飲んでばかりでご飯を食べないと、低血糖を起こしやすくなります。また、アルコールは飲み薬やインスリン注射の効き目に影響することがあるので、薬物治療をしている人は、飲酒はやめましょう。
インスリン療法の目的。
血糖コントロールのよくない、高血糖の状態を長い間放っておくと、さまざまな合併症が起こってきます。それを防ぐためにも、インスリン注射は必要です。また、妊娠中や妊娠を希望する女性患者さんや、感染症にかかった場合など、一時的にインスリン治療が必要となる場合があります。
インスリン製剤は種類がたくさん。生活や病状に合わせて選べます。
インスリン注射にはペン型とシリンジ型の2つがあります。ペン型は細い注射針と、カートリッジ式のインスリン製剤を使うタイプ。はじめから両方が一体になった使い切りタイプもあります。一方シリンジ型は、注射器で容器に入った製剤を吸引して注射します。ペン型の方が持ち運びが簡単で、痛みも少ないので主流となっています。
またインスリン療法には、一日を通しての血糖のデータが必要です。最近では採血時の痛みが少ない、血糖自己測定器も発売されていますので、上手に利用しましょう。
どのインスリンを、いつ、どのくらい注射するかは、患者さんのライフスタイルに合わせて決められます。
インスリン注射はずっと続けなくてはいけない?
2型糖尿病患者さんの場合、インスリン注射を一生続けなければいけないわけではありません。的確にインスリン療法を行って膵臓のβ細胞の働きが回復すれば、インスリン注射が必要なくなる場合もあるのです。血糖コントロールが改善されると、注射の回数や量を減らすこともできます。
インスリン療法の前に知っておいてほしいこと。
1. インスリンは皮下組織に注射してください。
皮下脂肪の厚い人は皮膚をつまんで、注射針を垂直に刺しましょう。皮下脂肪の薄い人は同じように皮膚をつまみ、注射針を斜め45度に刺します。
2. インスリン製剤はここに打ちます。
インスリン注射をする部位は、おなか・上腕・おしり・太ももです。毎回同じ場所に注射しないようにしましょう。
3. インスリン製剤の吸収は打った場所によって違います。
一番吸収が早く、痛みの少ないのはおなか。続いて上腕、おしり、太ももです。注射した所はもんだりせず、1時間くらいは入浴や激しい運動を避けます。
4. こんな症状が出たら、すぐに主治医へ連絡しましょう。
風邪や下痢などで普段どおりの食事がとれない時も、インスリン注射や飲み薬をやめてはいけません。インスリンがまったく体の中に入ってこないと、血糖値が急激に上がり、糖尿病性昏睡に陥ってしまうことがあります。
体調の悪い時は、必ず主治医に相談しましょう。